徳谷柿次郎(以下、柿次郎さん)の著書、『お前の俺を教えてくれ』の表紙はゴリラである。本の中でも経営論としてゴリラとチンパンジーの対比が用いられた。筆者は、柿次郎さんとゴリラの関係について、単に「好きな動物」や「比喩表現」を超えた関係性を感じている。観察を続ける中で、興味・関心を持ち続けた結果、自らがゴリラに近づいているのではないかと感じ始めた。本レポートでは、ゴリラの生体的・社会的要素の獲得を「ゴリラ化」と定義し、起業や移住を経験した30代における柿次郎さんのゴリラ化について考察していく。なお、文献調査だけでなく、2017年以降は参与観察も行った。
1章:ゴリラへの関心の変化
柿次郎さんがゴリラに対して関心を持ったのは、養老 孟司・山極 寿一著『虫とゴリラ』(2020,毎日新聞出版) の影響が大きい。2020年8月3日に自身のtwitterにて、
「僕は人間がゴリラやチンパンジーの生息域から離れて、新しい土地へ旅立とうする時、ゴリラやチンパンジーが持ち得ない、好奇心が芽生えたと思ってるんです。未知の場所にはいいことがあるんじゃないかって」
わからないを増やす本能的な動機…
と、本を読んだ感想をツイートしている。当時は養老孟司氏に対しての関心が高く、「虫とゴリラ」という印象に残りやすいタイトルにも惹かれて購入しただけと思われた。しかし、ゴリラに対しての興味は一過性ではなく経営論や考え方の枠組みまで多岐に渡っていく。そして、初の著書の中でも一章をゴリラの話題に割いたのだ。
しかし、もともとゴリラに関心があったわけではない。2017年の70seedsの取材記事では、
「以前取材した旭山動物園の園長も『チンパンジーは大人みんなで子育てする』という話を聞いていて、チンパンジーでもできるのになんで人間にできないんだと。」
と、ゴリラと同じ霊長類のチンパンジーに対して関心を向けている。さらに驚くべきことに、柿次郎さんが編集長をつとめる「ジモコロ」の2017年6月の記事の概要として、
「もしもバナナが消えたら、動物園の動物にはどんな影響が? (略)ニホンザルやチンパンジー、オラウータンなど猿たちの主食はどうなる?そして他の動物への影響はいかに?」
と様々なサル類を取り上げる中で、ゴリラの存在が忘れられていたのだ。
柿次郎さんの起業は2017年2月、そして移住が2017年5月であることを考慮すると、チンパンジーを取り上げたのは、まだ起業・移住したての時期だったと解釈することもできる。では、2017年以降にどのような変化があったのか。身体的変化・精神的変化の2つの面から考察していく。
2章:肉体的要因でのゴリラ化
かつての柿次郎さんの特性の1つは「胃弱」であった。2015年〜2018年に使っていたプロフィールでは「顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。」と記載している。WEBメディアで「胃弱メシ」の連載を担当し、胃腸の弱い男・代表として、山梨にて開催されたイベントにも登壇している。
2012年〜2019年3月に執筆していた「柿次郎のブログ」にて、「胃弱」のキーワード検索をかけると、16件の記事が表示された(プロフィールも含む)。しかし、2017年〜2022年に執筆している「note」では「胃弱」のキーワード検索をかけても1件も記事が表示されなかった。「胃腸の弱い男・代表」と自負していた柿次郎さんの胃腸が強くなっていったのが明らかである。移住・起業を通して強靭な胃腸を手にいれたのであった。この点にゴリラ化の兆候がみられる。ゴリラが他のサル類(チンパンジーやニホンザル)よりも遊動域が大きい。その理由として、幅広い食性と強大な消化能力が挙げられていた。
ゴリラは、繊維質のもの(根、葉、茎など)でも十分に栄養を吸収できる後腸発酵型の消化器系をもっている。柿次郎さんの消化器系がどのような進化を遂げているのかは分からないが、ゴリラ化が進んでいるものと思われる。
3章:社会的要因でのゴリラ化
「30代で出会った人の数は、1000人どころか10000人を超えているのかもしれない。」誕生日当日のfacebook投稿の一文である。柿次郎さんは、都心や全国各地で様々な人たちと出会ってきた。しかし、東京→長野市→信濃町と徐々に人口規模が小さいエリアへと移住を繰り返している。
これは、ゴリラの社会において適正な集団規模を人間にあてはめると、150人が最大である点へとつながっていく。田舎へ移住し、適正な規模感でコミュニケーションをとっていくことこそが、今の柿次郎さんが望んでいることなのかもしれない。
4章:まとめ
胃腸の強靭化、コミュニティの縮小をはじめ、ゴリラ化について様々な面から検証した。
ゴリラは果実を好んで食べ、繊維質でタンニンを多く含んだ果実をよく食べる傾向もある。その結果、柿の仲間を食べていたことも分かるなど、柿次郎さんとゴリラには様々な関わり合いが見られた。
しかし、ゴリラは独占欲が強い。この思考は、広く情報を拡散させる発信者には向いていないようにも思われる。今後、情報発信しなくなるのではないか。その不安を変えたのは「カニ」との出会いである。現在、「現場宝石タラバガニ」を名乗り、様々な地域の可能性(宝石)を拾っているが、名乗り始める1年前に蟹への関心は存在していた。
これから「カニゴリラ」として、どのような進化を遂げていくのか、これからも目が話せない。
<参考文献>
山極 寿一(2005)『ゴリラ 第二版』一般財団法人 東京大学出版会
山極 寿一(2018)『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』毎日新聞出版
山極 寿一(2016)「『会話なくても信頼』150人まで ゴリラに学び 人を知る」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASJB13H2V_T10C16A4AA2P00/
徳谷柿次郎「Huuuuの柿次郎のブログ」https://jet-set.hatenablog.com/
徳谷柿次郎「note」https://note.com/kakijiro/
70seeds「徳谷柿次郎が語る『利他』 社会を憎んだ少年の今」https://www.70seeds.jp/kakijiro-302/
プロフィール
藤原 正賢(ふじわら まさたか)
1994年生まれ。長野県長野市出身。大学在学中に、「信州若者1000人会議」や「小布施若者会議」といった、長野・地方へ関心の高い若年層を対象としたイベントの企画・運営を実施。現在は、長野県の移住総合WEBメディア「SuuHaa」をはじめ、行政や地元企業と一緒に、新たな人と情報の流れを生み出す事業に携わっている。
おまおれエッセイ寄稿コンテスト開催中(9/30迄延長)
アイデンティティを他者との対話で探る。今回の本のポイントです。テーマ「おまえの中の柿次郎を教えてくれ」でエッセイを寄稿してみませんか?
10名の方におまおれ本と黒磯本をセットでお送りします。
※詳細・応募フォームはこちら
『おまえの俺をおしえてくれ』エッセイ寄稿コンテンスト 受付フォーム
書籍概要
■商品情報■
・今、自分は「ある」よりも「ない」だと思っている人
・自分の生き方に選択肢が「ない」と思ってる人
・いつか「ある」状態になりたいと思ってる人
この本はそんな人にこそ読んでもらいたい。
タイトル :おまえの俺をおしえてくれ
著者 :徳谷柿次郎
出版社 :風旅出版
発行元 :Huuuu
定価 :定価 大人1,800円(税別)
判型 :変形四六判(113 mm ×182mm)
発売日 :2022年9月16日(40歳)
目次(抜粋)
1)自分で自分を編集する
2)異常でしたね。執着が。
3)セロトニンがでない部屋
4)おまえすごいな、最高やな!
5)「遊ばなきゃ」っていう意識
6)ずっと下唇震えてましたからね、急に決断迫られて
7)自分にとって一番いい栄養分があるところに容赦なく動ける
8)おまえの俺をおしえてくれ
寄稿「おまえの俺をおしえてくれ」
小林直博/原宿/宮脇淳/シモダテツヤ/小野田弥恵/MOTOKO/塩谷舞/カツセマサヒコ/納谷ロマン/小倉ヒラク/藤本智士/友光だんご/石崎嵩人(敬称略)
【一冊販売】『おまえの俺をおしえてくれ / 徳谷柿次郎』 | 風旅出版
【5冊卸販売】『おまえの俺をおしえてくれ / 徳谷柿次郎』6掛け 9/30迄 | 風旅出版
【10冊卸販売】『おまえの俺をおしえてくれ / 徳谷柿次郎』6掛け 9/30迄 | 風旅出版